2023/03/24
金融引き締めとインフレの関係性と日銀の金融政策を解説
日銀では2022年12月20日の会合で金融緩和策を修正して大きなニュースになりました。金融政策の立案と推進は日本銀行の重要な役割の一つです。
最近おこなわれた日銀の金融政策の中では大きな市場の反応がある決定だったのが金融緩和策の修正です。実質的に金融引き締めに相当すると市場は理解しました。
この背景には世界的にインフレが続いている影響もあります。この記事では日銀の金融政策について、金融引き締めとインフレという視点から紹介いたします。
目次
2022年末の日銀が決定した金融緩和策の修正とは
2022年12月20日の金融政策を決定する会合では、日銀は金融緩和策の修正を発表しました。
まずは金融緩和策の修正の内容と、市場の解釈について簡単に確認していきましょう。
長期金利の変動幅を上限0.25%から0.5%へ
金融緩和策の修正として決定されたのは長期金利の変動幅の上限引き上げです。日銀では超低金利政策を進めてきました。
欧米での利上げが進む中で、日銀では長期金利の変動幅を±0.25%という低水準を維持していました。2022年末の会合では長期金利の変動幅を±0.5%に拡大しています。
長期金利とは
長期金利とは1年以上にわたって金融機関が貸付をする際に適用する金利を指します。
長期融資を受ける企業や個人が増えると需要と供給の関係によって長期金利を上げるのが一般的な施策です。
経済が好調なときには金利が上がり、不景気になると金利が下がります。ニュースなどで話題にされる長期金利は基本的に10年もの国債の利回りです。
金融緩和策の修正の目的・意図
日銀は金融緩和策の修正について金融引き締めではないという見解を示しています。日銀では金融緩和を維持し、賃金の上昇を促して消費を加速させる方向性を重視してきました。
インフレが続く世の中で利上げによる金融政策で対応するのは基本です。欧米では早期から利上げによる対策を進めていますが、日銀では目的が異なることがわかります。
具体的な意図については日銀が発表しているわけではありませんが、日銀では10年もの国債のイールドカーブを上げることを見越して変動幅の上限を引き上げたと考えられます。
償還期間と債券利回りの関係性を示したグラフのこと。「利回り曲線」と呼ばれています。
日銀は国債買い入れを進めていて、前代未聞の発行済み国債の5割を保有する状況になっています。異例の状況を打破する目的で10年もの国債の金利を引き上げやすくしたと解釈できるでしょう。
国債保有率(%) | |
---|---|
2018年9月末 | 45.69 |
2019年9月末 | 46.85 |
2020年9月末 | 48.01 |
2021年9月末 | 48.08 |
2022年9月末 | 50.26 |
社債などの債券による資金の動きを促進する目的もあったと考えられます。日銀では経済を回転させることを重視して金融政策を進めているため、債券の活用を見越した政策だったと理解することもできます。
市場は金融緩和ではなく金融引き締めと解釈
市場は日銀による長期金利の変動幅の緩和を金融緩和ではなく金融引き締めと解釈しました。
日銀は金融緩和策を維持する方針で金融引き締めではないと主張していますが、解釈によっては明らかな金融引き締めになる金融政策です。
長期金利の変動幅が2倍に拡張されたことで利上げが許容されるようになったと解釈できます。債券や融資などの金利を今までよりも大きく引き上げることが認められると、実質的には利上げに相当すると考えることが可能です。
長らく金融緩和策を固持してきた日銀の金融政策の方針が変わったと解釈することもできるため、大きなニュースになって今後の日銀の動向が注目されています。
金融緩和策の修正による影響
日銀の金融緩和策の修正は世の中に動揺をもたらしました。2022年12月20日の発表を受けて大きな変化が起きています。
金融緩和策の修正による影響を具体的に見ていきましょう。
長期金利の上昇
長期金利は長らく上限の0.25%で推移してきていましたが、一時的に0.46%まで上昇する事態になりました。
長期金利の変動幅の引き上げが年末に認められた影響もあり、2023年から金利を上げる施策も取られるようになっています。
住宅ローンの金利の上昇
消費者にとって身近な話題として住宅ローンの金利上昇があります。金融機関では10年固定金利を0.1%~0.3%ほど引き上げる方針を立てて対応しています。
2023年1月からの10年固定金利について、三菱UFJ銀行では1.05%(前年比+0.18%)、三井住友銀行では1.14%(前年比+0.26%)、みずほ銀行では1.4%(前年比+0.3%)と定めました。
10年固定金利 | |
---|---|
三菱UFJ銀行 | 1.05% (前年比+0.18%) |
三井住友銀行 | 1.14% (前年比+0.26%) |
みずほ銀行 | 1.4% (前年比+0.3%) |
住宅ローンの固定金利は10年もの国債の長期金利を参考にして定めているケースが多いため、長期金利の上昇によって大きな影響を受けています。
融資や債券の金利の上昇
融資や債券の金利についても上昇する可能性が示唆されています。企業向けの長期融資や各社による社債でも長期金利を参考にして金利を設定します。
全体的な利上げに伴って金利が上がることは避けられないでしょう。企業にとっては資金調達方法を再考しなければならない状況になっています。
円高ドル安
金融緩和策の修正によって利上げが予想された影響で、日銀による発表の後は為替市場が乱れました。
利上げを進めた米国に対して日本の金利が近づく可能性が高いと考えられたため、円高になる傾向が生まれました。一時的には米ドル円が5円程度下がり、131円台にまで到達しています。
その後、再び円が売られて135円前後に戻っていますが、日銀による金融引き締めと解釈された金融政策発表の直後は投資家への衝撃が大きかったことがわかります。
日経平均株価の下落
年月 | 始値 | 終値 |
---|---|---|
2022/10 | 26,215.79 | 27,587.46 |
2022/11 | 27,678.92 | 27,968.99 |
2022/12 | 28,226.08 | 26,094.50 |
2023/01 | 25,716.86 | 27,327.11 |
2023/02 | 27,346.88 | 27,445.56 |
日経平均株価は金融緩和策の修正を受けて一時的に900円ほどの下落を起こしました。金融引き締めへの日銀の方針転換と市場が理解したことによって円高ドル安になったのが原因です。
日本では輸出企業が株式市場の大半を占めています。円高になると輸出先での販売利益が相対的に減ってしまうため、輸出企業にとっては不利です。結果として輸出企業の株式が売られて日経平均株価が低下しました。
金融引き締めはインフレ対策として消費活動を抑止する影響力もあります。そのため、経済活動に支障を来すリスクが高いと判断されて株価が下がりました。
今後の日銀の金融政策はどうなるのか
今後の日銀の金融政策は引き締めなのか緩和なのかが気になるでしょう。
今後の方針についてブルームバーグ・サーベイが継続調査を進めています。サーベイ結果に基づいてどのような展開が考えられるのかを理解していきましょう。
3月の時点では現状維持・6月には引き締めを予測
ブルームバーグ・サーベイでは、日銀の金融政策決定会合に基づく今後の方向性についてエコノミストに調査を実施しています。3月の会合の時点では現状維持をするという見解が9割以上を占めています。
金融緩和策の修正があった翌月の1月時点では調査対象者全員が金融引き締めを進めると予想していたことを考慮すると、従来の金融緩和策維持の方向に動いてきていることがわかります。
ただ、日銀総裁が黒田氏から植田氏に体制が変わることを受けた変化の可能性があります。3月時点での現状維持という視点は、あくまで前年12月の金融緩和策の修正を受けた方針について維持することを意味しています。
同調査では6月には金融引き締めを実施するという見方が41%を占めていました。今後は日銀による金融引き締めを念頭に置いた資産運用を進めるのが重要と考えられます。
金融引き締めはないという見解も存在
ブルームバーグ・サーベイの見解はあくまで40数名のエコノミストによる意見であって、必ずしも正しいとは言えません。日銀による金融引き締めはないという意見も存在します。
例えば、ZUU Onlineではメールマガジン「クレディ・アグリコル会田・大藤 アンダースロー」の記事を転載して公表しています。
同記事では2023年に日銀の金融政策の引き締めがないと主張していますが、理由をまとめると以下の通りです。
- 海外経済の減速リスクを考慮すると経済の見通しは下振れリスクが高い
- アベノミクスによる大胆な金融政策の拘束が残っている
- 日本の経済構造に中にはデフレ圧力がある
- 防衛増税との兼ね合いを考えて金融政策の推進に慎重になる必要がある
今後の日銀の方針は引き締めの方向に向かう可能性があるのは確かです。
ただ、国内外の情勢を考えると一概にすぐに金融引き締めに踏み切れるわけではないと言えるでしょう。
まとめ
日銀の金融緩和策の修正は実質的な利上げとして市場で解釈されました。インフレによる物価の高騰を抑制する金融政策として欧米では利上げを推進してきています。
日銀は金融緩和による経済の活性化を重視して金融政策を進めてきたため、長期金利変動幅の引き上げが発表されたときには市場に激震が走りました。
今後、日銀が金融政策をどちらの方向性に進めるかは予想が困難です。どちらに向かったとしても資産を守れるように運用していきましょう。
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